「今日はちょっと意外かもよ」
僕は彼女に一言だけ告げ、ある場所に歩みを進めた。
長年住んでいると気付かなかったが、あらためて考えると、
仙台はとても様変わりしたと思う。
駅前には商業ビルが立ち並び、世界的なホテルもできた。
新しい飲食店も増え、食事するときはどのお店に行くか迷ってしまう。
しかし今日は一年に一度の彼女の誕生日。
特別な日にふさわしい場所を考えたとき、僕の頭にはあのお店しか浮かばなかった……。
街の雑踏から少し離れ、僕たちの目の前に現れたのはSS30。
僕たちが大人になる頃から当たり前にあった高層ビル。
当たり前だからこそ普段は訪れない場所でもあった。
「小学生以来かも!」
幼い頃を思い出してか、彼女は少し声がうわずる。
ガラス張りのエレベーターでどんどん小さくなる街並みを眼下に、最上階の30階まで上がり目的のお店「MIWAKU」に入る。

スタッフの言葉に少しびっくりした様子の彼女は、
店内に一歩入るなり、「うわぁ!」とまた驚く。
窓一面に広がる仙台の夜景が僕たちを迎え入れてくれたからだ。
実はこの日のために、僕は何度かお店に訪れスタッフと打ち合わせていた。
すでに顔見知りになっている僕とスタッフは目を合わせ、笑顔を見せ合う。
ライトダウンされた店内はキャンドルで灯され、夜景が一際映えている。
あらかじめ予約していた夜景の見える二人掛けのシートに座り落ち着くと、タイミングを見計らったようにカクテルが運ばれてくる。
「誕生日おめでとう」
グラスを軽く合わせると心地よい音が響く。
前菜からパスタ、創作寿司など、運ばれてくる料理はどれも個性的な創作料理。美しく盛り付けされた料理と、グラスもお皿も他のお店では見たことのないものばかりで、よほど楽しいのか運ばれてくるたびに彼女は一つ一つについて感想を言ってくる。
一通り料理を食べ終えると、気付けば僕たち二人だけになっていた。
「よろしければ、あちらのお席にいかがですか?」
スタッフが示す先には一段高くなった特別な空間があった。
そこは足元までガラス張りになっていて、まるで天空にある席のよう。
そのタイミングでトイレに立つと、
「ご用意できています」とスタッフがこっそり耳打ちしてくる。
その言葉を聞き、僕は気付かないうちにポケットの中にある小さな箱を、確認するかのように軽く握っていた。
席に戻りさりげなくスタッフに目配せすると、店内に流れていたムードのあるBGMが一変し、Birthday Songが流れ出す。Happy Birthdayと書かれたドルチェが運ばれてくると、今日一番の笑顔を見せる彼女。
「今までこんなことしたことなかったのに、どうしたの!?」
うれしそうに言ってくる。

何年も一緒にいる彼女に緊張するはずはないと思っていた。
しかし、いざその時になると胸の高鳴りが収まらず、やっと出た言葉がその一言。
指輪の入った小さな箱を出すのも精一杯だった。
そっと彼女を見てみると、今日一番の笑顔のまま泣いていた。
安堵の笑顔を僕がすると、
「おめでとうございます!」と店内にいるスタッフ全員で祝福の言葉が飛んでくる。
その合図と共に打ち合わせ通り赤いバラの花束をスタッフが僕に手渡す。
「結婚してください!」
今度は浮かれてしまいさっきと同じことを言ってしまった僕に、
手渡したバラの花束を胸にした彼女は声を上げて笑っていた。



















